佐藤純の賭博回遊業 俺の日常と弟子との出会い
歌舞伎町に出勤途中、ホームレスに食料を配るのが俺の日課である。優越感や自己満足、そういった類の感情ではない。話すきっかけがほしいのだ。 稀に興味を引くネタを持つ人間もおり、食べ物を渡す代償として話を聞かせてもらっている。
ある日、いつもの日課をこなしていると、年の頃は40歳前後の中年のホームレスと出会った。見た目の年齢はさほど俺と変わらない。ホームレスに堕ちるにはやや早くはないだろうか。
彼に興味を持った俺は、手元のおにぎりを渡しながら問いかける。
「いつからここにいるんだ？」
「いやー、つい最近きたばかりの新人ですよ。このおむすび貰ってもいいんですか？」
どうやらホームレス歴は短いらしく、ある程度の常識は残っているようだ。年齢は俺より少し若いらしい。
勘違いをしてもらっては困るので先に言っておくが、俺は決してゲイでは無い。恐らくは年齢が近いところに親近感を覚えているのだろう。
今の俺に他者を労わる余裕はないが、なんとなく放っておく事ができなかった。
「まだ若いし、再起はできる。立ち直りたかったら、俺についてくるか？」
………
…
ホームレスは、素直に俺の巣に来た。この素直さは、まだすれていない証拠だ。事情は後ほどゆっくりと聴く事にして、先ずは大事な体臭ケアーを開始した。
貴重品のみ確保し、まずは服を選別する。綺麗な服を洗濯に、もう着れそうにない服はゴミ袋へ入れる。体臭が有るので直ぐにシャワーを浴びてもらい、伸び放題だった爪は切らせて、ブラシで汚れを落とさせる。口臭も気になったので、歯ブラシを与えてブラッシングをして貰った。これで見た目は一般人になった。
落ち着いて服を着てもらい、コーヒーを提供してから話を始める。
彼は、西東京市から流れてきたそうだ。元々は営業の仕事をしていたらしいが会社の倒産で職を失い、アパートの家賃が支払えなくなって強制退去をさせられたらしい。 そこで、新宿に行けば何か食べ物にありつけるかも知れないという単純な発想で新宿に向ったそうだ。この地に来た事で俺に出会ったのだから、彼の選択はある意味正しかったのだろう。
彼に博才があるかは判らないが、出来れば最低でも普通の生活に戻りたいとの希望だったので、カジノで生活を立て直す事を提案。 これから連れて行く場所は非合法の賭場で有ると説明し、彼も了承してくれたので連れて行く事にした。
彼の居た道路を渡り、歌舞伎町の本丸、一番街に出撃する事にした。弟子となった彼との初めての戦いである。
一日10,000円の収入が有れば十分に生きていけるので、目標を10,000円と定めていざ勝負開始。 俺の巣に住まわせるのも一考したが、正直なところ、狭い部屋で同性と長々と生活するのは非常に辛いものがある。一刻も早く、サウナなり格安宿泊所に移動して貰うには、やはり10,000円ほど収入を上げてもらう必要があったのだ。
勝負卓は、ミニバカラに決めた。4-100ドルの卓に入る。資金として、手持ちの金から4万円を提供し、勝ったら返金して貰う事にした。最初は兎に角、状況を観察するように指導しているので彼は動かない。 俺も後ろでじっと様子を見守っている。助言をしたい所だが、初めての勝負にはツキが付くと言うことを実践で体得している俺は、あえて何も言わずに観察をしていた。
５ゲームが終了した段階で彼は動いた。過去の出目と流れを参考に賭けを開始する。彼の震える手でマウスを操作して、初のベットはバンカーに5ドル。何を考えているのか、サイドベットの引き分けに10ドルも張っている。それでは本線で当ってもサイドで負けてしまう。
まあゲームが終わってからレクチャーするとしよう。ゲームの成り行きを見ていると、プレーヤー側がナチュラル９。これで引き分け以外本線も負けで15ドルがパーだが、バンカーに配られたカードの合計はなんとナチュラル９。ビギナーズラックという奴だろうか。そのゲームが終わってから質問をしてみた。
「引き分けに10ドルも賭けていたが、来そうだったのか？」
「はい、引き分けだと思いました！それしかないように感じましたので、怖かったけど10ドルかけてみました。」
やはり初心者は恐ろしい。
数ゲームで目標の10,000円が出来たので、今回の勝負は終わらせて喫茶店に移動。貸した資金を無事回収して、彼は勝利金の10,300円を手にしている。彼を俺の巣に少し置いて、独り立ちさせるのが今の俺の仕事だと感じながらコーヒーを飲み交わした。 その後、新宿副都心の外れに有る巣に彼を招き入れた。何も無い状態なので、布団と枕だけは用意してやった。
今後、彼をどの様に教育していくか、様々な思惑が脳裏をよぎる。拾ったペットでは無いが、最後まで責任は持つつもりだ。とりあえずはアパート資金を貯めさせて、俺の巣から追い出す事を考えねば。
今後は、彼の立ち直り具合を併せて報告する。
この物語はフィクションです。あくまでも「読み物」としてお楽しみいただくためのものであり、インカジ（カジノカフェ）を奨励するものではありません。
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そこらへんに居る普通のオヤジです。若い頃は、結構女性にも男性にもモテました。 （ゲイビデオのスカウトもされましたが、喫茶店に連れていかれて、飲み食いタダでさせて貰い、逃げました。）今では見向きもされない存在に成り下がりました。